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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)52号 判決 1968年11月19日

上告人

伊藤治夫

代理人

森健

石川康之

被上告人

伊藤幾治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森健、同石川康之の上告理由について。

本件建物は訴外土屋が本件土地を被上告人から一時使用の目的で賃借した当時に建築した仮設建物であり、右建物を上告人が買い受けるとともに、同訴外人から本件土地の賃借権の譲渡を受けたが、この賃借権の譲渡については被上告人は承諾しなかつた、その後、被上告人、は当時居住していた疎開先から名古屋市に帰るについて、家屋の建築費用および長男の教育費等を捻出するため、上告人との間に、被上告人は、本件土地のうち、115.702平方メートル(35坪)を上告人に売り渡し、その余の部分を上告人は三年以内に被上告人に明け渡す旨の契約が成立したが、上告人は所定どおりに売買代金を支払わなかつたため、被上告人によつて売買契約は解除され、当事者間で本件土地の明渡の期日について話合いがされ、被上告人は五年以内に明け渡すことを求めたのに対し、上告人は七年間の猶予を希望し、いつたん七年の猶予で明け渡すことに両者の間で合意ができたが、その後上告人は期間の延長を申し入れ、被上告人もやむなくこれを予承し、ここに期間を一〇年とする賃貸借契約が締結されるに至つた旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではない。そして、右のような本件賃貸借契約締結の経緯に徴すれば、本件建物の外観がバラックとは認められず、上告人が本件建物において茶商を営み、そこを生活の本拠にしており、右一〇年の期間中に本件土地の賃料が逐次値上げされたとの事情を勘案しても、なお本件賃貸借契約は一時使用のためされたものと解するのが相当であるとの原審の判断は正当で、首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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